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「・・・おいっ!こいつどれだけ飲んだんだ!!」

眉間に皺を寄せながら必死で腰にまとわりつくを引き剥がそうとする三蔵の質問を受け、彼女の周辺にあるお酒を確認する。

「えっと・・・これだけです。」

確認できたのは最初に飲んでいたサングリアと、味だけなら甘いけど結構アルコール度数の高いお酒。
彼女はそれ以外一切手をつけていない。
だが目の前にいるは、顔を真っ赤にしてとても楽しそうに三蔵の法衣にしがみ付いている。

「えへへぇ〜さんぞぉーv」

「三蔵!すっげー力で離れねぇよ!!」

三蔵に言われを引き剥がそうとしている悟空もお手上げ状態。

・・・貴女、抱きつき魔だったんですね。」

「さんぞぉ〜♪」

「三蔵じゃねぇ!!」

まるで猫が飼い主に甘えるかのようにゴロゴロと三蔵の胸元に顔を寄せている姿はいつものからは想像できない。
どちらかと言うと三蔵の前では少し遠慮しているように思えましたからねぇ・・・。
珍しい光景に思わず手も出さず眺めていると、耐え切れなくなった三蔵が動いた。

「離せと言ってるだろうがっ!!」

思い切り振り払うと三蔵にまとわりついていたが法衣から手を離し、床にペタンと座り込んでしまった。
急に静かになったが心配になった悟空がそろり、そろりと近づくと今度は悟空の首に両手を回してギュッとしがみ付いた。



まるで獲物がかかるのを待っていたみたいですね。



「ごくぅ〜v」

「うわあぁぁっっ!っは、離してっ!!」

「えー悟空はやなのー?」

頬を真っ赤にしたが悟空と額をくっつけて話をしている姿は傍目には微笑ましく見えるが、悟空としては今まで見た事がないの姿にかなり動揺しているようで見ているこっちにも分かるほど呼吸が荒い。

「あのっそのっ・・・」

「ごくー可愛いぃぃ〜v」

真っ赤になって照れている悟空が気に入ったのか、更に胸に抱え込んでまるでぬいぐるみを撫でるかのようにその頭を撫でている。

「助けてー!三蔵っ!八戒ぃぃぃ〜

「暫くそいつのお守りでもしてろ。」

に引っ張られて崩れた着物を正しながら、顔を真っ赤にしている悟空を睨む三蔵。



保護者さんがそんな事でいいんですか?



「あははは・・・でもちょっと悟空も涙目ですよ。」

「知るか。」

しまいにタバコを吸い始めてしまった三蔵が手を出すとも思えなかったので、僕は苦笑しながら悟空を抱きしめているの側に膝をつくと彼女の名前を呼んだ。

、そろそろ悟空を離して貰えますか?」

「えー・・・やぁーだ。」

お酒によって舌っ足らずになった口調も可愛らしいんですけど、あまり女性に免疫のない悟空にはちょっと刺激が強すぎますよね。

「ほら、悟空も苦しそうですし・・・ね?」

「ん〜・・・」

まだ納得いかないみたいだが、実際に悟空が半泣き状態なのに気付くとその手を緩めてくれた。
その隙に悟空は部屋の隅でタバコを吸っていた三蔵の方へ一気に逃げ出し、法衣の裾をぎゅっと握って胸を押さえていた。



・・・ご苦労様です。



すると今度はが両手を伸ばしてじーっと僕の顔を見つめ始めた。
普段だったら彼女のほうが恥ずかしがって先に視線を外すはずが、今はまっすぐ・・・僕を見ている。

「・・・どうしました?」

いつもと様子が違うと、案外落ち着かないものですね。

しかしそんな事、顔にも出さずいつものように少し距離を開けて彼女と話そうとしたら彼女の口から意外な言葉が出てきて思わず声を無くしてしまった。

「抱っこ。」

「は?」

「八戒抱っこ〜v」

「え?」

の言葉に驚いているうちに、彼女は僕の腕の中に勢いよく飛び込んできた。
突然の事にバランスを崩し、彼女が床に落ちないよう片手で体を支えもう片方の手を床について何とか自分の体を支えた。

「あったか〜いv」

「そ、それは・・・どうも・・・」



さすがにちょっと・・・動揺しちゃいますね、これは。



いつもの可愛らしい笑顔とはまた少し違う、お酒の所為で上気した頬、潤みがちな瞳・・・そして全身で甘えてくる姿は今まで見た事のないですからね。

「は〜っかい。」

先ほど三蔵にしていたのと同じように僕の胸元に擦り寄ってくる姿は・・・どこか猫に似ている。

「はいはい・・・貴女は酔うと随分甘えん坊さんになるんですね。」

姿勢を起こして彼女の体を軽く抱きしめれば、逃げるどころか嬉しそうに微笑んで目を閉じている。

たまにこんな可愛らしいが見れるなら、お酒を飲むのもいいかもしれないですね。
けれど今悟浄が帰ったら・・・大変ですね。
悟浄がこんなを見たら確実に手を出しかねませんから・・・。










どうして人って言うのは良くない願いほど叶ってしまうんでしょう。

「はぁー・・・よーやく見つけたゼ、ご指名の紅茶。」

声を聞いた瞬間、思わずの体を隠すよう悟浄に背を向けしっかり彼女を抱きしめてしまった。

「お、何だよ。お前ら来てたのか?・・・ってナニそんな端っこに立ってんだよ?」

「煩い、黙れ。」

「しかもナニ?おサルちゃん顔真っ赤じゃん。酒でも飲んだの?」

面白がって悟空の側に行くと、悟空は目元をごしごし擦ってからそれを否定した。
それから一番に出迎えてくれるはずの人物を探して悟浄が周囲を見回し、僕の腕の中にいるに気付いた。

「あれ?チャン・・・」



・・・気付かれちゃいましたか、しょうがありませんね。



悟浄は手に抱えていた紙袋を机に置くと僕の側にゆっくり近づいてきた。

「あ〜あ、こりゃまた随分飲んだな。」

「え?」

「あっごじょーv」

「はーい」

が悟浄の存在を確認すると今までしっかり僕の首に絡めていた腕を解いて、笑顔で両手を広げている悟浄の方へと移動して行った。



なんとなく、僕といるよりも穏やかな笑顔を浮かべながら・・・。



「ごぉーじょーう〜v」

「はーい・・・って随分甘い匂いだな、今日のは・・・」

「「「今日のは?」」」

悟浄の何気ない一言にその場にいた全員が疑問の声を上げたと同時に悟浄の元へ足を進めた。

「・・・おい八戒、お前はが酔うと抱きつく癖を知っていたのか?」

「いいえ、全く知りませんでした。」

がお酒に弱いと言う予備知識はあったもののどれくらい飲めるのかと言うのは知らなかった。
しかし今悟浄が言った言葉は明らかに以前と一緒に飲んだ事があると言う事で・・・。

「あ゛・・・」

しまったと言う顔をしながらもしっかりの腰に手を回して抱きしめている。

「悟浄?貴方、の癖・・・知ってたんですか?」

「いやぁ〜そのぉ〜・・・」

言葉尻が途切れ、視線が定まらない・・・と言う事は、やはり知っていたと言う事ですね。
不思議と自分の中で何かが壊れていく音が聞こえた気がした。

「ごじょ?」

周囲の空気を感じ取ったのか、が顔を上げてじーっと悟浄の顔を覗き込んでいる。

「おい、少し離れろ。お前も巻き添え食いたいか。」

三蔵が声を掛けてもその視線は悟浄から離れる事はない。
さすがの悟浄も三蔵の怒りを感じ始めたのか、の頭を指でつつくと苦笑しながら三蔵を指差した。

チャン?三蔵が呼んでる・・・」

「うん、知ってるーv」

コクコクと首を縦に振りながらもう一度悟浄の肩に頬を寄せた。

「・・・っちゃぁ〜」

「いい度胸だ。」

機械的な音を立てて三蔵の銃の安全装置が外された。

「ちょっ、ちょい待ち!この距離はマジチャンに当たるって!!」

しかし三蔵は銃口を悟浄からずらそうとはしない。

「安心しろ、てめぇが動かなけりゃに当たる事はない。」

「うっわー・・・やな感じ。」

そう言えば悟浄がを離して逃げるだろうと言うのを踏んでいたのだろうが、悟浄は三蔵に視線を向けたままギュッとを抱きしめ続けた。

「・・・貴様、本当に死にたいか。」

「いんや、でもオレチャンは離さねェよ。」



そう言って何処か誇らしげに笑った悟浄を見て、僕の中で・・・何かが音を立てて切れた。



無言で悟浄の腕の中にいるの肩を叩いてこっちを振り向いた瞬間にその体を抱き上げる。
急に腕から消えたに慌てる悟浄に三蔵の昇霊銃が向けられた。

「ちょっっ!おいっ!八戒!!」

三蔵の銃から逃げながら、悟浄が何処か非難めいた声で僕の名前を呼んだけれど・・・
腕の中のが僕の名前を呼ぶ悟浄の声に反応して顔を上げたけれど・・・
今の僕には彼女しか見えなかった。



僕も・・・あの一瞬に酔ってしまったのかもしれない。
いつもと違う笑みを浮かべ僕の名前を呼んでくれたに・・・。



「はっかい?どしたの?」

「・・・え?」

「お顔、怖いよ?」

抱き上げていたの手がそっと僕の頬に触れた。

「八戒は笑ってるほーがいいなぁー」

いつもよりも少し甘い声でそう言ったは、回りの惨状も知らずさっきと同じように僕の胸に頬を摺り寄せた。



こういう時、素直に思います。
貴方の純粋さは、僕にとって何よりも尊い物だと言う事を・・・。




、少しだけソファーで待っていて貰ってもいいですか?」

「えー・・・やぁ〜。」

首を小さく横に振る姿はどこか小さな子供が病院に行くのを嫌がるようですね。
そんな風に可愛らしく言われたら中々離れられないじゃないですか。
でもどうしても確認しなきゃいけない事が出来ましたから・・・。

「それじゃぁ三蔵と一緒ならどうですか?」

「さんぞぉ〜?」

「えぇさんぞぉーです。」

小さな子供の言い聞かせるよう、同じように言葉を繰り返すと暫く頭をひねっていたがにっこり笑顔で頷いた。

「いいよぉ。」

「ありがとうございます。」

に選手交代の了解を得てから、今度は机をはさんで悟浄と攻防戦を繰り返している三蔵に声を掛けた。

「三蔵!」

「あぁ?」

「代わって下さい。」

「何言って・・・」

苛立ちを込めた目で振り返った三蔵に笑顔でもう一度同じ台詞を告げた。

「・・・代わって下さい。」

「・・・あぁ。」

するとやけにあっさりその場を離れ、三蔵の方に手を伸ばしていたの手を取った。

「ありがとうございます。もしもが休むようでしたらそこのソファーを使ってください。」

「分かった。」

「さんぞぉーv」

「何だ。」

「なんでもなーい♪」

天下の玄奘三蔵に用もないのに声をかけられるのは・・・ひょっとしたら彼女だけかもしれないですね。





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